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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)8736号 判決 1980年7月28日

原告 田中孝一

右訴訟代理人弁護士 相馬健司

被告 服部利八

右訴訟代理人弁護士 三島駿一郎

被告 三菱倉庫株式会社

右代表者代表取締役 和田穣太郎

右訴訟代理人弁護士 山田弘之助

同 山田隆子

主文

原告と被告ら両名との間において、契約年月日昭和五〇年四月二五日、寄託者服部利一、受寄者被告三菱倉庫株式会社、品名スチールキャビネット(S2三二〇―七八P、S2三二〇―八〇S)とする寄託契約につき、被告服部利八が被告三菱倉庫株式会社に対し契約上の権利を有することを確認する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一当事者の申立

(原告)

主文と同旨の判決を求める。

(被告ら)

原告の請求棄却、訴訟費用は原告の負担、との判決を求める。

第二当事者の主張

一  請求の原因

(一)  被告服部は、昭和五〇年四月二五日被告会社との間で、次のとおりの契約(以下「本件契約」という)をした。

1 寄託者 服部利一

2 受寄者 三菱倉庫株式会社

3 目的 美術品

4 保管場所及び保管方式

被告会社京浜支店のトランクルーム備え付けのS2スチールキャビネット三二〇―七八P及び三二〇―八〇S(以下「本件キャビネット」という)に保管する(スチールキャビネット保管方式)

(二)  被告服部は、債権者の執行を免れるため、その長男である訴外服部利一(以下「訴外利一」という)の氏名を使用して本件契約をなしたうえ、被告服部所有の美術工芸品等を保管しているもので、本件契約は、その契約者の名義の表示にかかわらず被告服部が被告会社との間でなした契約上の権利を有するものである。

(三)  原告は被告服部に対し、貸金及び絵画売渡代金の残債権として、二七六万六二六九円の債権を有し、右債権については、東京地方裁判所昭和五〇年(ワ)第八六二八号貸金等請求事件の執行力ある判決の正本を有するところから、右債務名義に基いて、被告服部を債務者、被告会社を第三債務者として、本件契約に基いて本件キャビネットに保管中の美術工芸品等の有体動産につき、同裁判所昭和五五年(ル)第五三五号有体動産引渡請求差押命令、同庁同年(ヲ)第四一三三号有体動産引渡請求権取立命令の各申請をし、各命令を得たが被告会社は、右トランクルーム寄託契約の寄託者が訴外利一名義であるところから、その契約者が被告服部であることを争い右命令による引渡に応じない。

(四)  よって、右債務名義上の権利を実現するため必要があるから、右寄託契約上の権利者が被告服部であることの確認を求める。

二  請求原因に対する被告服部の認否

(一)  請求の原因(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の事実は否認する。契約上の権利者は訴外利一である。すなわち、被告服部は、当初被告会社との間でトランクルームの寄託契約をして絵画、陶器等の美術品を寄託していたが、昭和四一年秋ころ、死後のことを考えて財産関係を整理する必要性を痛感するに至り、昭和四二年に、被告服部所有の有体動産類のすべてを、その妻及び子に贈与した。その際本件キャビネット内に保管してあった美術品については、長男である訴外利一に贈与し、被告服部は被告会社との間の寄託契約を解除し、新たに訴外利一が被告会社との間に寄託契約を結ぶに至ったものである。

(三)  同(三)の事実中、原告が主張の債権並びに債務名義を有する事実は認める。

三  請求の原因に対する被告会社の認否

(一)  主張の契約が存在する事実は認める。しかし、右契約は本件キャビネットの賃貸借契約を内容とするもので、キャビネット内に保管されている美術品の寄託契約ではない。

(二)  同(二)の事実中、真実の契約者が被告服部ではなく訴外利一であるとの事実は知らない。

(三)  同(三)の事実中、原告のなした強制執行につき、本件契約の契約者が訴外利一であると主張している事実は認める。

第三証拠の提出援用《省略》

理由

一  本件契約(その契約の内容が寄託を目的とするものであるか否かはしばらく措く)が存在することは当事者間に争いがない。

二  本件契約の契約者が、申込名義人である訴外利一であるか、被告服部であるかについて争いがあるので検討する。

《証拠省略》によると次のとおりの事実が認められる。

本件契約は、被告服部が服部利一の名義によって申込をし、契約者を服部利一として契約したこと、契約に際し、被告会社に差し入れるべき「印鑑票」「トランクルーム寄託契約申込書」にはいずれも被告服部が服部利一と署名して持参した印を用いて押印し、服部利一の住所として被告服部の住所を記載し、その後昭和五二年九月二〇日に、被告服部の住所が変更したのに伴って被告会社に対し、服部利一の住所につき被告服部の新住所をもって住所変更届をし、印鑑票には被告服部の電話番号を記載していること、本件キャビネットの利用に関する契約は昭和三七、八年ころ、被告服部を申込者として契約がなされた(但し当時は木製戸棚)が、その後右契約を一旦解約したうえ、訴外利一を申込者として本件契約がなされるに至ったが、その申込者の届出印は同じものが用いられていること、本件契約に基く料金の支払い手続は一切被告服部がなし、被告会社は料金の支払いが遅滞したときは、印鑑票に記載された住所或は電話番号に従って被告服部に支払いを催告し、これに応じて被告服部が支払いをしていたこと、本件キャビネット内の物品の出し入れは、一切、被告服部が印鑑票により予め届出た印及び預り証を持参してこれをなしていたこと、被告服部は、昭和三九年九月二四日当時、既に訴外津島秀登に対し一七七二万円余の売買代金債務を負担しており、昭和四九年ころ右債権に基いてその有体動産につき強制執行を受けたのに対し、訴外利一及び訴外田中敏夫より当該有体動産は右訴外人らの所有であるとして第三者異議の訴を提起して抗争したが、いずれも被告服部に対する債権者の追及を避けるために形式的に右訴外人らの名義にしているものに過ぎないとしてその主張が斥けられたこと、の各事実が認められる。

以上の事実を総合すると、本件契約は訴外利一の名義により契約されているが、右は被告服部が本件キャビネット内に保管中の書画等の美術工芸品に対する債権者からの執行を免れるため、被告服部がその長男である訴外利一の名義を用いて契約したもので、その契約上の権利者は被告服部であると推認することができる。《証拠判断省略》

三  そこで本件訴における確認の利益についてみるに、《証拠省略》によると、原告が被告服部に対し、貸金及び絵画売渡代金の残債権として、二七六万六二六九円の債権を有し、右債権について東京地方裁判所昭和五〇年(ワ)第八六二八号貸金等請求事件の執行力ある判決の正体を有すること(以上の事実について被告服部においては争いがない)、原告が右債務名義に基く強制執行として、被告服部を債務者、被告会社を第三債務者として、本件契約に基いて本件キャビネット内に保管されている美術工芸品等につき、被告服部の被告会社に対する引渡請求権につき差押並びに引渡命令を得てその執行をしたこと、これに対し被告会社が、目的物件が訴外利一名義で寄託されているので訴外利一の立会ないし了承、或は訴訟手続において、契約者がその名義に拘らず被告服部であると確認されるまで執行に応ずることはできないと主張したため執行が不能に帰したこと、の各事実が認められる。

してみると、原告が右債務名義に基いて、本件キャビネット内に保管されている美術工芸品等を目的として強制執行を進行させ、その権利の実現を得るためには被告らとの間において本件契約につき真実の契約者すなわち被告会社に対し契約上の権利を主張し得る者が被告服部である旨の確認を求める利益があるものということができる。

もっとも、《証拠省略》によると、本件契約においては、被告会社が指定したスチールキャビネットすなわち本件キャビネット内に被告服部が保管しようとする物品を自ら収納して施錠し、その鍵は被告服部が保管していること、被告会社は契約に際し予め被告服部に交付してある預り証と、契約に際し印鑑票により届出られてある印を所持して申出た場合に限り本件キャビネットの設置してある場所に立入ることを認めるが、それ以上に、契約者が本件キャビネット内に収納し、或は搬出する物品についてはこれを確認せず、特に求められない限り、その収納、搬出について被告会社の職員が立会うこともしないこと、被告会社は本件キャビネットの鍵を被告服部とは別に保管しているが、これは被告服部が鍵を紛失した等非常の時のためのもので被告服部に無断で本件キャビネットを開扉することはできないこと、の各事実が認められ、以上の事実からすると、被告会社は契約者である被告服部に対し、本件キャビネットの使用を認めると共に、本件キャビネットの保管を託されているものであると理解される。従って、被告会社が主張するように、被告会社は本件キャビネット内に保管されている具体的な物品について直接その保管を委託されているものではないが、本件キャビネットの保管を託されて被告服部のために占有しているものというべきである。原告は、本件契約をもって、本件キャビネット内の物品(美術工芸品等)の寄託契約であると主張しているが、本件請求の趣旨は本件契約の内容につきこれを右いずれのように解するかに拘らず、本件契約において被告会社に対する契約上の権利者が被告服部であることの確認を求めるにあるものと解される。

四  以上のとおりであるとすれば、原告の被告らに対する請求はいずれも理由があるというべきであるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 川上正俊)

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